|


23時59分。
「まっ、こんなもんだろう…」
バックボードを揺らしたボールは、リングの縁を1回転すると、ゆっくり外に落ちた。
ツトムは、冷めたように笑うと腰を下ろした。
公園の隅に立てられたバスケットゴールが、照明に照らし出されている。
同窓会で久しぶりに会った、バスケ部の仲間たち。ツトム、ナガノ、ヒロアキ、キョン、そして、マネージャーのハルカ。
5人は同窓会を抜け出して、街のはずれの小さな公園に来ていた。
ロスに転勤になったキャプテンのミノルだけ、ここにいない。
「ダメだ〜、1本もシュート入らねぇよ」額に汗を浮かべながらナガノが叫ぶ。
「みんな、どんだけぇ〜!まだ5分もやってないのに…!」ハルカが冷やかした。
「もうオレたち、バスケなんて無理だって」ネクタイを外したヒロアキが、息をきらしながらボヤく。
久々のバスケにはしゃぐ仲間から距離をおいて、ツトムはひとりぽつんと座っている。
仕事がうまくいかないのか、なにか悩みがあるのか。
最近のツトムは、会うごとに無気力で投げやりになっていく。それが4人を不安な気持ちにさせる。
キョンは、そんなツトムにちらっと目をやると、ハルカに合図した。
「そろそろSkypeしてみたら?」
そう、いつもの合図だ。ハルカはFONの電波を探してみた。見事にキャッチ。
「キャプテンの登場で〜す!」突然のハルカの声に、みんなが振り返った。
ロスのミノルに“mylo”でSkypeフォン。
「ミノル、いま大丈夫?」
『ったく…。勘弁してくれよ。こっちは徹夜明けだぜ』
最近は、バスケ部の仲間で集まるたび、ハルカの“mylo”を使ってミノルと連絡をとりあうようになった。チャットだったり、Skypeフォンだったり。
「ミノルだけ仲間はずれじゃ、かわいそうじゃない。仲間なんだからさ!」
「それにコレだと通話にお金かかんないし!」というのが、ハルカの主張だ。相変わらずマネージャーらしい。
“mylo”をまわして、みんなでかわるがわる話す。遠くロスにいるはずのミノルなのに、すぐそばに座っているような感覚になる。ミノルは忙しくても、必ずPCから返事をしてくれる。

キョンがツトムに“mylo”を手渡した。
『おう、元気かよ』
「まぁ、ちょっと不調かな…」
『らしいな…、聞いてるよ』
「なんだよ、情報早いじゃないか」
『そりゃ、チームだからな…』
「なんだよ、あいかわらずキャプテン気取り?」
『おまえ、バスケもそうだったけど、自分ひとりでしょいこむなよ。たまには、あいつらに頼ってみるのもアリだぜ』
「…………」
『仕事かナニかわかんないけど、とにかく話してみろよ』
「…あぁ、サンキュー」
“mylo”を手にしたまま、ツトムは笑いながら、東の空をみて軽くうなづいた。
ロスの方向だ。
ツトムは、1on1をはじめたナガノとキョンを眺め、
「オレは、まだ頑張れるのかな…?」とつぶやいた。
コートの向こう側から、ハルカが“mylo”をふりかざしながら呼んだ。
「ねぇ〜! ツトムの“mylo”で、この中の曲、聴いてみて!」
ツトムは、ハルカの“mylo”にアドホックすると、音楽ファイルをチェックし始めた。
その曲はすぐに、わかった。
「わかるよね? ツトムのいちばん好きだった曲だから!」
ツトムはなにも言わずうなずくと、自分の“mylo”で曲を再生しはじめた。
かつて、みんなで夢中になった、バスケアニメのエンディングテーマだ。
「ツトムってさ、いつもこの曲聴いてたよね。」と懐かしむヒロアキ。
「きまって、ミノルとケンカしたあとだよね」とハニかむハルカ。
「こいつ、基本的にアツい男だから」とナガノは横目でツトムを見た。
「ところで、なんでツトムも“mylo”持ってるの?」不思議そうなキョンに、
ヒロアキとナガノが口を揃える。「まっ、いいじゃん」
“mylo”から流れる想い出の曲に聴き入っていたツトムは、いきなり立ち上がり、
ナガノからボールを受けとった。
「オレは大丈夫だよ」そう言って、ツトムはボールをかまえた。
「オレは大丈夫だよ…」もう一度つぶやくと、シュートを放った。
「おまえらがいるから」
ツトムの手を離れたボールは、夜空に放物線を描き、音もなくネットに吸い込まれた。
ツトムの“mylo”のスピーカーから、あの曲が流れている。
ハルカは微笑みながら、ボールを奪い合うツトムたちを見つめていた。
|