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ウィル&レインボー+フィービー・スノウ  [2003.07.22]
 この『ハーモニー』で前作以上にウィル・ブールウェアへの興味をかきたてられた私は、メイシオ・パーカーとのツアーでパリに滞在中のウィルに電話を入れた。
 彼と話すのは初めてだったが、76年の作品『クリスタル・グリーン』でマイケル、ガッドを起用し、フュージョンの潮流を作った一人だということは聞いていた。生まれは52年、ケンタッキー州のバーズタウン。6歳からピアノを始め、14歳でR&Bグループに参加、17歳のときには自己のオルガン・トリオを結成していたという。74年に拠点をNYに移し、以降数多くのレコーディング・セッションにピアニスト、キーボーディスト、作・編曲家として参加してきた。90年代からはメイシオ・パーカーのグループの欠かせない一員として活動し、もちろんメイシオのレコーディングにも参加している。
 電話口から伝わってきたウィル・ブールウェアの人柄は、誠実で几帳面。その几帳面さに、私もインタヴュー中に一、二度たじろいだほどだった。
 「スーパーなミュージシャンたちとハーモニーを作ることは、難しいことじゃない。とても佳い時間をもてたことに、感謝しているんだ。前作から参加してくれているマイケル、ガッド、ピーターとは永い友人だし、皆個性もテクニックもある第一級の演奏家ばかりだから、編曲にも苦労はなかった。工夫したことがあるとすれば、各自の個性をいかに活かすかということだけだ」
 要約すると、彼はこんな風に話を始めた。話をフィービー・スノウのことにふると、ウィルの口調がよりなめらかになった。
 「フィービーのシンガーとしての成長には、ぼくも目を見張ったよ。昔はもっとライトな歌声だった印象があるけれど、今はフル・ヴォイスで歌っていて、そこが佳い。フィービーは80年代は娘さんの教育に専念するため、キャリアをあきらめなくてはならない事情があったようだ。でもその娘さんが育ち、今後はどんどん歌っていきたいと意欲的だった。フィービーが歌った3曲は、ブルース以外は彼女自身が選んだものだ。<フォー・ザ・ラヴ・オブ・ユー>は、アイズリー・ブラザースが歌った大ヒット曲。フィービーの希望だけあって、しっとりと素敵に歌ってくれた。
それに<ウィル・ユー・ラヴ・ミー・トゥモロウ>を選んだのも彼女だったが、レコーディングの初日、挨拶代わりに皆で1曲やろうということになって、テープを回した。そのファースト・テイクが、これなんだ。フィービーの言う通り、スローでやったけれど、すべてがうまくいったんだ」


 フィービー・スノウは52年NYに生まれ、74年にレオン・ラッセルのシェルター・レーベルから『フィービー・スノウ』でデビューし、数々のヒット曲をチャートに送り込んだ70年代を代表するシンガー・ソング・ライターだ。確かに80年代は沈黙の時代だったが、この<ウィル・ユー・ラヴ・ミー・トゥモロウ>から聴こえてきた母性は、歌の解釈を広げるものだった。
 キャロル・キングが書き歌ったもの、それは切ないほどの恋心であり、愛すればこその不安だったが、ここでフィービーが「明日も愛してくれるかしら」と問いかけている相手は、広義の「愛する人たち」だった。またブルースにあった魂の叫びも、人生の苦しみを知る人のものだった。
 「歌わなかった時代」「歌いたくても歌えなかった時代」があったからこそ、今のフィービー・スノウの歌があるにちがいなかった。
 またフィービーから感じた「成熟」は、アルバム全体を覆うもので、今作に参加したすべてのミュージシャンから感じたものでもあった。

 アレンジャーとして、コード・チェンジなど、1曲の中の調和にも気を配ったというウィル・ブールウェアのことばをもとに、収録された曲について簡単に触れておきたい。
 まずジョン・カリンが書いた<イスラエル>でアルバムはスタートするが、ここでのマイケル・ブレッカーの熱いブロウはまた話題を呼ぶことだろう。キース・ジャレットが書いた<レインボー>は、グループ名との一致とその美しさから選ばれ、ホレス・シルヴァーの<ピース>は、以前からメロディとハーモニーに惹かれていたそうだ。またハービー・ハンコックを敬愛するウィルは、どうしてもハービーの曲を収録したく思い<ワン・フィンガー・スナップ>を選び、ピーター・バーンスタインのギターをメイン・フィーチャーした。
 ウィル・ブールウェアのオリジナル2曲については、ご本人に解説してもらおう。
 「<ニュー・アンド・オールド>は83年に書いた曲ですが、ちょっと古めかしい感じが好きで今回演奏することにした。スティーヴ・ガッドのドラム・ソロをフィーチャーしました。そして<ケンタッキー>はレコーディングの1週間前に作曲し、故郷を思い起こさせる懐かしさがあったので、このタイトルをつけました。ちなみにアメリカを代表する作曲家のスティーヴン・フォスターはケンタッキー州の、しかも同じ町の出身で、そんな含みもあってこの曲名をつけたんです」

 この『ハーモニー』からは一人ひとりの内なる調和、皆で作るハーモニーの必要性と愉しさが聴こえてきた。またそれは世界が醸し出しうるハーモニーについても、語りかけてくるようだった。
 ある潮流をともに作ったミュージシャンが、研鑽と人生の経験を携えて、ここに集っていた。そして、瑞々しくも成熟したフュージョン・サウンドを作り上げていた。虹は夢の象徴だけれど、今回のレインボーのサウンドからも、やはり夢を感じた。
 ある年齢になると、夢を見、叶えようとすることが簡単ではなってくるのかもしれない。でも、ここに集う我が友人でもあるメンバーたちは夢を追い続けていた。永く元気でいてほしい。

 このアルバムを聴いている間、特に<ウィル・ユー・ラヴ・ミー・トゥモロウ>を聴いていて、ボブ・バーグ夫人の可愛い笑顔がしきりと思い出された。ハンプトンズにある家の庭に、美しい百合が咲いたと喜ぶ彼女の顔があった。そんな彼女の傍らで、ツアーから帰ったばかりなのに、無骨そうなボブ・バーグが掃除機をかけていた。
 ボブ・バーグ夫人に、今夜手紙を書こう。ボブが天国に行った今も、きっと明日も、彼女を愛していると思うと、書いて送りたい。
左から、フィリップ・セス(syn)、ピーター・バーンスタイン(g)、フィービー・スノウ(vo)、ウィル・ブールウェア(p)、スティーヴ・ガッド(ds)、アンソニー・ジャクソン(b)。
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