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ハリー・コニック,Jr.の初DVDにブラボー [2004.09.20]
※権利者の許可を得ずに、複製することを禁じます。
 ハリー・コニック,Jr.にとって、日本で発売される初めてのDVD『オンリー・ユー・コンサート〜ライヴ・フロム・ケベック・シティ』が届いた。1987年にデビューを飾って以来、活躍を続ける彼の初DVDだから、これは書かないわけにはいきません。
 ファンの一人としても嬉しいし、まずは,ハリー自身このことを大変喜んでいることをお伝えしなくてはならないと思う。
 「なぜかと言えば、ぼくはライヴが何より好きだから。音楽という心から愛する仕事に携わり、活動を続けている幸運のなかにあっても、作詞・作曲、編曲やレコーディングよりも更に、ライヴ・ショーが好きなんです。
 準備は緻密に進めます。その上で、プランをすべて忘れて、真っ新な気持ちで毎回ステージに上がる。時間をさいて来てくださったオーディエンスの前で歌い、ピアノを弾き、ショーを披露するとき、喜んでいただけているんだという嬉しさがこみあげてくるんです」
 2004年春から9月まで続く「オンリー・ユー・コンサート・ツアー」の最中、5月に電話インタビューに応じてくれたハリーが、あくまでも快活に、でも大変真摯な口調で、ライヴにかける意気込みをそう力説した。
 ハリー・コニック,Jr.のコンサートを、ときにはUSやパリにまで飛んで欠かさず見てきたが、『オンリー・ユー・コンサート』に関しては私もこのDVDで初めて見た。
 そこにいたのは、成熟し、堂々としたアメリカを代表するエンターテイナーの一人だった。貫禄と言うにはまだ青春の甘さを残した彼の存在は、今がまさに音楽的・旬を迎えていると言っていい。
 02年にスタートし、全米で人気放映中のTVドラマ「ウィル&グレイス」のレオ・マーカス役で忙しかったのか、頬が少しこけ、ハンサム度が増し、サザナーらしいジャケット姿が彼の魅力を引き立てていた。90年代まではシャイな面があり、ステージ中央に立って観客に歌いかけるより、ピアノに向かい弾き語りをしているときの方が伸び伸びしていた彼が、本作ではステージ中央がどこよりも似合う、総合的なエンタテイナーに成長を遂げていた。
 そしてその音楽は、発売当初から大ヒットになったアルバム『オンリー・ユー』(03年録音、04年春リリース)のロマンティシズムを踏襲しつつ、より広い彼の音楽性が伝わってくる構成で、音楽の楽しさをあますところなく伝えてきた。
 DVD『オンリー・ユー・コンサート』は、04年初頭、カナダ、ケベック州にあるクラッシィなたたずまいの劇場で行われたコンサートの全貌に加え、極寒のカナダでそり遊びをするハリーの童心に返った様子、またカナダのジャーナリストのつっこんだ質問にていねいに、正直に答えていくインタヴュー・パートから成り立っている。
 このコンサートの模様は、既に全米ではPBSを通じて04年春に放映されているが、それに20分ほどの未放映の楽曲とインタヴュー等を加え、製品化された。
 パートごとに切り取る角度が異なれば、当然ハリーが見せる顔も少しずつ違うけれど、そのどれもが真実のハリー・コニック,Jr.の姿を映していて好もしい。興味深いインタヴュー、そしてメープル・シロップで作ったアイス・キャンディを食べるシーンはご覧いただくことにして、ここではコンサートについて書いてみたいと思う。

 このコンサートは、彼にとって万全のセッティングである、自身のビッグバンドと、この日のために集められたストリングスを従えて行われた。ビッグバンドには彼のお気に入りであるメンバーの顔が並び、ホーン・セクションから適材適所で選ばれるソリストの多彩さだけでも目を見張る。ハリーはバンド・リーダーとしても優しい人で、ソリストに誰ももれることがないよう、ソロをうまく振り分けている。このハリー・コニック,Jr.・オーケストラのスウィング感、躍動の楽しさは絶品だ。
 ストリングスには録画の効果も考えたのだろう、美しい女性奏者たちが揃い、ハリー渾身の、以前よりぐっと素直になったアレンジをいかして流麗な演奏を聴かせる。  ハリーは、前述のことばからも察せられるように、いつもステージに出てからその日のプログラムを決める。
 「あの日も最初の2曲だけ決めておいて、あとはオーディエンスの反応と、その場の気分で決めていきました」
 だから、本人を含めハリー・コニック,Jr.・オーケストラのメンバーたちには、急に告げられるサインに応じられる腕前とスポンティニアスさがなければならなず、いつも予習・復習に余念がない。そしてジャズの基本精神である、即興の醍醐味をモットーにコンサートに臨むのだ。

 ハリー・コニック,Jr.は、ショーに関しては何でもやる。万能だと言っても、決して過言ではない。音楽面で作曲から編曲までこなすのはもちろんのこと(より佳いアレンジをとツアー中にも書き換えに余念がない)、コンピューター内蔵の譜面台からビッグバンドの衣装まで彼が考えるのだ。このDVDでバックを飾る幕もハリーのデザインで、夜空にまたたく一面の星をイメージさせる背景がロマンティックさを増幅していたと告げたところ、照れながらやっと彼自身が手がけたことを白状した。
 最新アルバム『オンリー・ユー』は、22歳で出逢ってから彼女一筋とハリーがのろける、ジル夫人に捧げられたラヴ・ソング集だった。
 「アルバムの選曲基準は、米columbiaレコーズ(ソニーミュージック)の元社長で友人でもあるドニー・アイナーの提案で、今まで手がけなかった50年代以降の少し新しめのスタンダード・ナンバーにしぼったんです。ぼくのジャズに関する興味は、50年代以前で止まっていましたから。それにデビュー時からマネージメントを担当してくれている、アン・マリー・ウィルキンスが好きな歌も加えました。このDVDでお見せするショーでは、結果的に収録曲の半分(16曲中8曲)が最新アルバムからのナンバーで、あとは以前の作品や、故郷であるニューオリンズの古い楽曲をとりあげています」
 彼の受け売りで、ニュー・アルバム以外の曲を中心にランダムに紹介しておこう。
〈愛しているのに〉は、55年にシンディ・ウォーカーとエディ・アーノルドが書いた曲で、『オンリー・ユー』にも収められていたが、大歓声を受けたこの曲が、ニューオリンズ・コーナーのスタートだった。続く〈バーボン・ストリート・パレード〉は、ルーションズ・アンクルの作品だそうで、ハリーが好きでよく自宅で弾く曲だという。彼は自分がスポットライトを独占するのを嫌うたちで、ここでトロンボーンのクレッグ・クラインと、トランペットのリロイ・ジョーンズを呼び出し、リロイにヴォーカルを取らせ、自身はバック・ヴォーカルにまわっている。その趣向の面白さに、3階の天井桟敷の観客までがスタンディング・オベイションで応える。
 次の〈ワン・モア・タイム〉は、ニューオリンズ出身のドク・プロミスの曲で、ここでも南部の雰囲気たっぷりのスローな演奏が、ハリーと彼のビッグバンドならではのものになっている。
 またソロ・ピアノでの〈スィート・ジョージア・ブラウン〉では、ハリーのピアノの個性を楽しめる。左手で繰り出す見事なリズム、古い時代のストライド風でありながらも独特なそのシンコペーション。ピアノでもエンターテインするここでの表現に、ジャズの歴史をすべて包括したうえでの、彼独自のピアノ・スタイルを見るのである。

 このDVDでベスト・パフォーマンスを1曲選ぶとしたら、4曲目の〈イット・マイト・アズ・ウェル・ビー・スプリング〉だろうか。
 ハリーらしいシンコペーションを駆使したピアノとスモール・コンボだけの演奏で徐々に盛り上げていき、この編成が続くのだろうと信じ切っていると、彼のキューでホーンが一斉に鳴るのである。そこからハリーがマイクをもって歌い出すという意表をつくアレンジが素晴らしく、見ていて背筋に電流が走った。
 それは音楽家である彼と、エンターテイナーとしての彼の、美しき合体がなければあり得ない出来映えだった。
 今回のインタヴューでは、ハリーが終曲について語ったことばが、彼のコンサートにかける想いに通じているように感じた。それをご紹介して、今回のダイアリーにも幕を引きたいと思う。
 「観客の一人ひとりに、楽しんだ思いを胸に帰っていただきたい。そんな気持ちで、楽しいナンバーをクロージングに選びました。誰もが生きる上で、苦労をかかえています。だからこそ、コンサートでは憂いを忘れて、ひたすら楽しんでいただきたいんです。日本のみなさんには、2000年の来日公演を最後にご無沙汰していますから、なおさらこのDVDで現在のぼくのショーを楽しんでいただければ幸いです」。
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