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キム・ハクエイの「目力」ピアノ [2005.07.27]
※権利者の許可を得ずに、複製することを禁じます。
 突然現れて、既に名人、という人がいるものなんですね。彼の名は金伯英(きむ・はくえい)。1975年京都生まれ、札幌育ち。オーストラリアに渡りシドニー大学音楽院でマイク・ノックに師事し、オーストラリアで活動していましたが、一念発起して帰国し上京。今年DIWからデビューした、新進気鋭のピアニストです。
 伯英は、師であるマイク・ノックの「音楽に命をかける真剣な姿勢から大きな影響を受けた」と言っていました。ピアノにこめられたただならぬ気迫は、師匠譲り。それに、オリジナリティがあるんです。これは、ノック先生の薫陶と、アメリカのジャズから影響を受けにくい、オーストラリアの土地の利(距離が離れていますから)が寄与したのだと思います。
 デビュー作『オープン・ザ・グリーン・ドア』には、伯英自身が作曲したオリジナルが5曲も収録されています。この5曲が、彼のオリジナリティの証でもあります。
 ピアノ・トリオでの録音ですが、三者が怒濤の交感で魅せるオープニング曲〈オファー・レフューズド〉で、まず心をつかまれました。広大な心象風景が見えてくる〈オープン・ザ・グリーン・ドア〉、師ノックに捧げた〈ディア・シショー〉。育った札幌の冬をイメージした〈サブ・ゼロ・ディスティネーション〉をソロでと(零度以下を意味しているタイトルです)、才能豊かにして多彩。
 曲の展開には荒削りな面もありますが、それもデビュー作では魅力のうち。これらの曲をすべてレコーディング数ヶ月前の一時期に書き上げたというのですから、作曲力にも期待できます。

 それを共に奏でるトリオのメンバーはドニー大学音楽院時代からの仲間で、息が合うのはもちろんのこと、しっかり支えるベースと、シンバルの繊細な音色が伯英のピアノを引き立てていて好もしいのです。有名曲を演奏していても、オリジナルな印象と、3人の息の合方は変わらず、バド・パウエルが残した〈テンパス・フュジット〉には、伯英が高校時代に影響を受けたというELPを彷彿させるロック・スピリットがこもっていますし、アーサー・シュワルツが書いたスタンダード〈アローン・トゥギャザー〉でも、とがり加減のアレンジで好演しています。
 キム・ハクエイの今までを、ここでちょっと補足しましょう。彼は5歳の頃からピアノのレッスンを始め、高校で先ほどふれたELPこと、エマーソン、レイク&パーマーなどの70年代ブリティッシュ・ロックに心を奪われ、バンド活動を始めました。
 94年、YAMAHA主催の「ティーンズ・ミュージック・フェスティバル・札幌」で「べスト・キーボーディスト賞」を受賞。高校を卒業後オーストラリアに渡り、そこでジャズの魅力、即興音楽の面白さを知り、ジャズ・ピアニストを志したのだそうです。
 先ほども書きましたが、シドニー大学音楽院で、ラッキーなことにマイク・ノックに師事しました。マイク・ノックは(ニュージーランド生まれですが)、オーストラリアで初めて世界的に知られることになったジャズ・ピアニスト、作曲家で、音楽教師としての素晴らしさは私も聞いていました。
 5月に豪メルボルン市でノックさんに会ったとき、「佳い生徒をおもちですね」と言うと、うれしそうに伯英の才能と研鑽に期待していると、言っておられました。
 でも、オーストラリアでジャズを学んできたということは、日本で仕事を始めるときに、アメリカのバークリー音大のような人脈があるわけではないので、簡単ではなかったようです。でも、伯英なら、どんどん多くの人と共演していけば、実力がすぐ認知されると思います。パッと有名にならなかったのも、幸せのうちかもいれません。

 ともあれ、2004月2月にシドニーで録音してきたデビュー・アルバムが、とがったジャズも網羅しているDIWからリリースされたことは、佳い出逢いであり、聴き手にとっても幸運なことでした。
 ちょっと前になりますが、アルバム・デビュー記念ライヴに足を運んだら、会場だった新宿のジャズクラブはもう満杯。そこで彼のピアノの展開力に、ますます魅了されてしまったのでした。
 加えて「目力」のある、長身のハンサム。人柄もよく、あふれる感謝の気持ちをことばでも観客に伝えてくるので、見ていて気持ちよかったですね。そう、そう、ユーモアがあって、しゃべりが面白いのもうれしい発見でした。
 聞けば、オーストラリアで多数のギグをこなしてきたのだそうで、その経験がいかされているのでしょう。やはり、「ローマは一日にしてならず」。様々な経験を積んできた、その蓄積が今、花開いたということなのでしょうね。
 キム・ハクエイの名前を、ぜひ覚えておいて。要チェック・アウト!ですからね。私も今年の暑い夏に、伯英のピアノから力をもらっています。
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