マイルス・デイヴィス亡き今、ウエイン・ショーターがジャズの支柱だと、多くの人が言います。私もその説に、賛成票を投じます。
74歳を超えてなお前進を止めない姿勢といい、音楽のクオリティの高さ、独自性への追求といい、ジャズの精神的大黒柱はウエイン・ショーターしかいない、というのが事実です。
先日も8月初旬まで、カルロス・サンタナ、ハービ−・ハンコックと共に、被爆60年を迎える広島、長崎ほかで平和を祈るコンサートで来日公演。どこで誰と演奏しても変わらない孤高の(かつオープンな)演奏姿勢は、やはりNo.1 の風格でした。
そのウエインと、来日中の7月25日に会うことができました。その前に会ったのは、オーストラリア、メルボルン市で行われたジャズ・フェスでしたが、ウエインさんでも、さすがにオーストラリア公演の後は同市の寒さに少々肺を痛められたとか。ですが、日本で会ったときはすっかりお元気。いつものことですが、こちらが元気をいただきました。
ウエインさんは、「誰もが、大きな価値をもっている」ことを、通訳の方や、レコード会社の担当の人、私にも、会う人皆にことばにして伝えてくれるんですね。
「あたなの仕事には価値がある」
「必ずあなたは幸せになると思いますよ」
こういったことを、ジャズの大黒柱に言われて、うれしくない人はいないわけで。今まで以上にがんばろうという気にもなるじゃないですか。で、がんばれば、実際に価値を増すでしょうし、幸せを信じていれば、行動もそうなっていき、幸せになる。
何てステキな循環でしょうか。

ウエインさんは、「言霊(ことだま)」のもつ力を、よーく知っている方なんです。佳いエネルギーをもったことばを口に出すと、それだけでことばの力が、佳いことを引きつける。逆も真なりですけれどね。
ともあれ、ウエインさんが人や状況を悪く言ったのを、私は聞いたことがありません。
それに、なんて若いんでしょうか。ルックスも若いですが、いつも最近読んだ本や映画の話をしてくれる。映画「ロード・オブ・ザ・リング」もウエインさんの勧めで見ましたし、いつも音楽のインタビュー以外に、お勧めの本をメモします。今回勧めてくれたのは、「ダ・ヴィンチ・コード」の作者ダン・ブラウンが書いたシリーズ第1作「天使と悪魔」。これはまだ読んでいませんが、日本語に訳されていますから、大助かり。
また「ダ・ヴィンチ・コード」も、映画化が決定し、先の6月にクランクインしたそうで、ロン・ハワードが監督、主役のハーバード大教授がトム・ハンクス、フランス警察の暗号解読官が、「アメリ」でキュートな演技を見せたオドレイ・トトゥ、「ロード〜」のイアン・マッケランも出演---こんな情報を、ウエインがくれるんです。(日本では、2006年5月に日劇1ほかで上映が予定されています)
ちょっと信じにくいですか?でも、本当なんです。
あのマイルスも、ウエインとは互角に現代建築、映画、文学、美術の話ができたと言っており、ハービー・ハンコックも「2人が話していると、ちょっと入れなかった」と当時を振り返っているほどです。

☆話の寄り道
ウェインに会ったとき、「ソニー・ロリンズが来日などの遠距離海外公演を、今年で止めるそうです」と話したら、「え?ソニーはもう80歳代だっけ?70歳代でそんなこと思うはずないしな。きっともう80代半ばになっているんだろう」という感想。
でも、実際はウエインとロリンズは1歳しか違いません。どちらも素晴らしいジャズマンではありますが、ウエインが若いのは、年齢のとらえ方にもあると見ていて思います。年齢というものも、実はかなり「自由」がきくもので、頭で考えて自ら自分を規定してしまう、そんな負の思考が、人に歳を感じさせるんではないでしょうか。
例えば、30歳になったら結婚しなくてはいけない、とか、50歳になったら派手な格好はしてはいけないとか、60歳はもう老年であるといった通説がありますよね。そういった既成概念を一度取りはらってみる。世間の「通説」にとらわれない。人が言うからそう信じるのではなく、どう信じるのか自分で決める。こういった「自由」な姿勢がウエインさんに、若さをもたらしているのだと思います。
ウエイン・ショーター・クァルテットの新作『ビヨンド・ザ・サウンド・バリアー』が5月にリリースされましたが、年齢も「ビヨンド・ザ・バリアー」だということでしょう。