< 中川ヨウのミュージック・ダイアリー
< TOP < Previous next >
ソニー・ロリンズ最後の日本公演を前に [2005.08.29]
ソニー・ロリンズ
『ウィザウト・ア・ソング(9.11コンサート)』

ビクターエンタテインメント
VICJ-61283
2005/08/24発売
ソニー・ロリンズ5年ぶりの新作は、9.11多発テロ勃発4日後に、ボストンで行われたコンサートの模様を収めたライヴ盤だ。近所に住んでいただけに、「人々に明るさを届けたい」という彼の信念は強く、その想いに貫かれたパワフルな演奏に心を打たれる。
ロリンズは、この新作ライヴ盤を「事件に心を痛めていたために、肉体面で本来の自分ではないところがある。私は寝起きでも、いつでもサッとサックスを吹けるタチなんだけれど、このときばかりはそうはいかなかった」と語った。
その冷静な批評眼にも敬服。あ、この「批評家」としてのロリンズが、隠遁2回に追いやった犯人なのね。でも、ロリンズの言うように「それも佳し。すべて佳し」である。
※権利者の許可を得ずに、複製することを禁じます。
 テナー・サックスの巨人、ソニー・ロリンズ(75歳)が秋に日本で引退公演をするらしいという噂が飛び込んできました。
 それは、えらいことだ!ロリンズが引退する前に話を聞かなければ、かけがいのないチャンスを逸してしまうと、私は思い切ってインタビューを申し込みました。お話しを直接聞いた結果、「日本での最後の公演」になるだけで、引退はしないということが解りましたが、「引退」かという噂のおかげで初めてロリンズに話を聞く機会を作れたのですから、おっちょこちょいも、たまには役に立ちます。
 今まで、ソニー・ロリンズにインタビューをしたことはありませんでした。なぜか、ですか?興味はありましたけれど、いつも読売新聞が招聘元としてインタビューするので、私におはちがまわってこなかったのですね。
 私の場合、マイルスにもサラ・ヴォーン、ジャコにも話を聞け、「遅れてきたジャズ・ファン世代」としては大変恵まれていたと思いますけれど、それでも「あぁ、あの人に話を聞いておきたかった」と思うミュージシャンが、数人はいますからね。たとえば、アントニオ・カルロス・ジョビンでしょうか。ですから、もう逡巡はやめて、即・行動です。
 電話で聞くロリンズの声は、男らしい野太い声をしていました。彼のサックスに、やはり似ていました。その声で、まずはっきり言ったのです。
 「私は、引退なんてしない。音楽活動を止めるなんて、私には考えられないことだ。ただ、日本のような遠い国でツアーをするのは肉体的にキツイので、海外公演は2005年で最後にしようと、昨年亡くなった妻とも話していたんだ。日本公演をしない理由に、妻ルシールの死が関係しているという話もあるのかい?それも、ちがう。『ソウル』は永遠のものだ。エネルギー・レベルでのルシールの実在を、今も感じているからね」

 ソニー・ロリンズは、生涯をかけて「人はなぜ生まれ、どこに行くのか」を問うてきたと話し始めました。仏教、それも特に禅や、キリスト教を学び、あるときははまってきたロリンズです。今はアメリカ先住民の言う、大自然に根ざした「グレイト・スピリット」の考え方がしっくりくるといいます。演奏しているときだけは、「大自然」に近づけるのだそうなのです。生地ニューヨークを離れ、自然に恵まれた土地に転居したのも、そのことと無縁ではありませんでした。
 「妻、ルシールの方が先に言い出したことだった。9.11があってから、引っ越そうと彼女が言い出した。最初は生粋のニューヨークっ子なもので、ちょっと考えたが、今はよかったと思っている。こうして自然のなかにいると、よけいなことを考えないようになったからね」
▲日本最後の公演も、エネルギーにみちた素晴らしいものだった。まだまだ吹けると確信するけれど、ご本人の美学だから、仕方がない。楽屋でのうれしい2ショット。この後、ロリンズさんは、ヨーロッパ最終公演に旅立っていった。
 ロリンズは繊細な人だという風評があります。電話での明るさも本当の彼でしょうが、人が言う繊細さも本当なのでしょう。その風評は、2度までも音楽シーンから姿を隠した経歴が作り上げたものでしょうね。
 人気絶頂だった59年から61年の間と(イースト・リバーにかかる橋で毎夜練習していたエピソードが有名)、69年から2年間、下界との関係を絶ちひたすら練習に明けくれたのでした。
 今回の引退説を否定する彼に「では橋のたもとで待っていれば会えますね」と言うと、大きな笑い声が返ってきました。
 「橋まで行かなくても、毎日自宅で練習しているからここで聞いてくれ」。
 そうですか。彼ほどの大御所でも、やはり毎日練習はするのですね。
 「もちろんさ。死ぬまでというか、肉体が許す限り、サックスを吹き続けるよ」

 その気真面目さに反して、ソニー・ロリンズの音楽は大きな明るさと、リズムのセンスをもっています。そこに多くの人々が、魅せられてきました。近所に住んでいたコールマン・ホーキンスに影響されてテナー・サックスを始めたことも、母親から受けついだカリブの血とリズム、肌の色のために米国内で受けた差別も、すべて偶然ではなかった、自らの音楽の血肉となったと語るロリンズです。
 「人は生まれ落ちる前、まだ魂の存在のときに、生まれてくる環境をある程度選んでくるのだと思う。人生は短い。が、来世もある。だからこそ、今をよりよく生き、人に与えたいんだ。来世はもう少し、光をもった存在になりたいからね。別に聖人君子に生まれ変わりたいわけではないさ。もう、人間にはならなくてもいい。石や岩になるのもいいだろうね。
 私も、肌の色のために受けた差別を許すには、長い時間がかかった。でも、その替わりといってはナンだが、サックスは初めて手にした日から難なく吹けたからね。まるで吹き方を知っているようだった。
 それも、これも選んできたんだろうと思うんだ。私はたぶん、ミュージシャンになることも今世のテーマとして選んできたんだと思うから、音楽で人を幸せな気分にしたい。人には楽しさや、幸せな気分を届けたいからね。あるファンが、仕事にいく前に毎朝私の音楽を聴く、なぜなら聴くと元気になり、今日もがんばろうと思えるからと言ってくれた。それこそ、私が音楽をやっている目的なんだ」

 ジャズの道を真摯にまっすぐに歩いてきたロリンズ。素晴らしい人生だと言うほかはない。

 私は11月11日、東京国際フォーラム(追加公演)に何をおいてもかけつけようと思っています。『サキソフォン・コロッサス』に収録された楽しい名曲〈セント・トーマス〉も、「自分のエゴのためではない。日本の観客が喜んでくれるから、演奏しよう」と約束してくれたから。それに、ロリンズの勇姿を今一度この目に焼きつけておきたいから。
ソニーロリンズ来日公演情報
11/11(金) 東京国際フォーラム ホールC ※東京追加公演
(問)JECインターナショナル 03-5474-5944
11/8(火) 北海道厚生年金会館
(問)BOSS A 011-271-5410
11/6(日) 東京国際フォーラム ホールA
11/4(金) Zepp Fukuoka
11/2(水) 大阪厚生年金会館大ホール
10/31(月) 愛知県芸術劇場コンサートホール
※詳しくは、JECインターナショナル サイトにて。
▲ Page TOP
< TOP < Previous next >
< 中川ヨウのミュージック・ダイアリー