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太陽のサックス、渡辺貞夫 [2005.09.04]
 ここ数年、渡辺貞夫さんの活動が活発で、しかも素晴らしいんです。所属レコード会社から離れられたので、その活動があまり巷に流布していないのが残念ですが。
 そこで、今日はそんな貞夫さんの数々の活動の中でも、特に感動した「万博」でのコンサートの模様と、暮れに行われる「クリスマス・コンサート」のことを書こうと思います。

 まず、万博から。
 8月18日、「愛・地球博」EXPOドームで行われた「渡辺貞夫/地球サウンド」は、まさしく渡辺貞夫にしかできない、音楽であり、コンサートでした。貞夫さんと、五大陸から結集した総勢400人の子供たち(打楽器隊とコーラス)が共演したのですから!
 貞夫さんが、愛知万博・政府出展事業「日本館」の総合監督をつとめたことはご存知でしょうか。「日本館」のためにこの3年、貞夫さんは身を粉にして尽力してこられました。
 そのメッセージソング「ウィ・シェア・ザ・ワールド」が、EARTHということばを音に移しかえた5音階だけで作曲されました。それを400人の子供たちとの共演で聴けるのですから、私も(夫にドライヴァーをしてもらって)愛知万博に駆けつけました。暑さも、万博の混雑も、楽しみのためとあらば苦になりません。
 さぁ、開演です。わ、出てきます、出てきます。各国のパーカッション集団が!
 ブラジルのオロドゥン・ジュニオールが、腰に下げた太鼓からサンバレゲエのリズムを叩きだすと、立体的な躍動がわき起こり、会場がカーニバル色にそまりました。貞夫さんが10年間、手とり足とり指導してきた栃木リズムスクールも、祝祭の立派な一員です。ここまでで、既に涙が出てくるような感動があります。それはこのイベントが貞夫さんの夢がかなったもので、一朝一夕でなったものではないと知っているからでしょうか。パーカッション軍団が繰りだすリズムが地球を揺るがすように、身体に振動を伝えてくるからでしょうか。
 ポルトガルの政府が支援して作っている青少年パーカッション・グループ、トカファは、リーダーのかけ声ひとつで16名がいっせいに動きを変えます。ばちをもった手で伸びやかな弧を描きながら、ステップで編隊を変えていくのです。赤いTシャツに白いパンツという制服も目に鮮やか。その編隊の動きも見事ですが、静止する姿が見事に決まっていて、絵になっているんですね。
 和太鼓を代表した鹿児島の霧島九面太鼓、郷花(はるか)は全員女性。かわいらしさと勇壮さで、日本のリズムの華やぎを伝えてきました。
 アフリカ代表、セネガルから出場したドゥグは、細い木のばちでたたく独特の太鼓の音色と、幼いダンサーの激しい動きで観客を魅了しました。
 アメリカでもゴスペルの実力で知られるハレルヤ・カンパニー・ジュニアは、2人のシンガーの高音域を活かしたソロを中心に、天にも届く声の重なりを聞かせました。彼らはバンドも自前で、アメリカのエンターテインメントの層の厚さをまたここで目の当たりにしたわけです。

 と、各グループの演奏も素晴らしかったのですが、やはり圧巻は全員がそろって歌い演奏するときでした。なかでも、先ほどふれた渡辺貞夫さんが万博のために作曲した「ウィ・シェア・ザ・ワールド」では、歌詞どおりの「笑顔のハーモニー」がありました。400人の子供一人ひとりの大きな笑顔のなかに、音楽がもたらすポジティブな力が輝いていたのです。
 ステージ中央で400人をまとめ指揮する貞夫さんのサックスが、まるで太陽のように子供たちと観客を照らしていました。聞けば、アフリカで70年代に独立を祝う式典で、大群衆の打楽器に囲まれた、その時の感動をもう一度違った形で再現したかったのだそうです。そのリ・クリエイションが、名古屋で美しく成し遂げられたことを感じました。
 観客もみんな地球の子供になって、手拍子、足拍子を繰りだし、音楽の一部になったのでした。
 終演後、感動のあまり(+貞夫さんと別れたくなくて)泣きじゃくって貞夫さんにしがみつく子供たちの姿に、あぁ、「真の教育」とはこういうことなのだなぁと、感銘を受けもしました。心のうちにともされた灯は、今後決して消えることがないと思います。

 もうひとつ、終演後楽屋を訪ねたときの、ぜひお伝えしたいこぼれ話を聞いて下さい。
 貞夫さんは晴れやかな笑顔で、私たちにもお茶やお菓子をふるまってくださいました。(名古屋名物「天むす」も勧めてくださいましたっけ。)で、こう言ったのです。
 「このなかから、ぼくのグループに入る子供が1人くらい、でるだろうね!」
 このポジティヴさ!素晴らしく前向きでしょう?この精神が、渡辺貞夫の音楽の根幹をなすものなのです。
 私も、暑いとか、疲れるとか、言っていられないなと思いました。この意味でも、貞夫さんは、私たちのかけがえのないお手本なのです。
 さて、秋にもSTBで貞夫さんとリチャード・ボナの共演がありますが、ここでは暮れに行われるクリスマス・コンサートのことを書きたいと思います。
 だって、貞夫さんが、今年で第13回目を数える「Christmas Gift 」の共演者にアルト・サックス奏者、チャーリー・マリアーノを迎えるのですから!大ニュースなのです。
 ジャズ・ファンなら2人が共演した1967年録音の名盤『イベリアン・ワルツ』(タクト)を、知らない人はいないでしょう。渡辺貞夫にスイングジャーナル誌主催、第1回日本ジャズ賞受賞をもたらした、先鋭の気概にみちた名作です。
 2人の共演作には、『渡辺貞夫とチャーリー・マリアーノ』(ビクター、67年)、『ウィ・ゴット・ア・ニュー・バック』(タクト、68年)がありますが、マリアーノ(1923年11月12日、ボストン生まれ)は67年前半を米国務省派遣文化使節としてマレーシアですごした後、日本に滞在したといいます(油井正一氏、記)。
 その間をふくめ、マリアーノは数度にわたって、渡辺家に泊まっていたそうです。当時のエピソードを、貞夫さん自身が日本経済新聞「私の履歴書」に、次のように書いています。
 「バークリーの元教師で、秋吉敏子さんと結婚していたこともある彼は、僕の師匠格なのだ。マージャンを僕に仕込んだのも彼だった」。

 貞夫さんに話をうかがうと、アメリカ留学から帰国し、日本の若きプロフェッショナル・ミュージシャンたちに乞われて「ジャズ教室」を開いていた時期のことです。渡辺家には、常時多くのミュージシャンやスタッフがつどっていました。
 「狭い家でしたから、チャーリーは居間のカウチで寝ていたんだと思います。レコーディングばかりか、国内のツアーにも、数度参加してもらいました」。
 チャーリー・マリアーノの音楽については、こう話してくれました。
 「ぼくのアイドルはチャーリー・パーカーでしたが、彼をライヴで聴くことは叶いませんでした。ですからチャーリー・マリアーノから、サキソフォンを演奏する上での、最も大きな影響を受けたと言っていいと思います」
 パーカーの影響を自身のジャズの血肉としたマリアーノは、ハードな演奏からエレガントなジャズまでを奏する、優れた演奏家・作曲家です。60年代後半からマリアーノはインド音楽等に傾倒し、貞夫さんはその音楽的視野をブラジル、さらにはアフリカへと広げ、それ以降、2人は今まで共演することはありませんでした。

 貞夫さんの場合、音楽が「再会」のきっかけになるのは、めずらしいことではありません。マリアーノが2000年ブダペストのオーケストラと共演した『Not Quite A Ballad』、あるいは『Deep In A Dream』といったここ数年のアルバムを聴いた貞夫さんは、その演奏に再び深く魅せられたそうです。特に演奏のインプレッションの強さに、驚嘆したのだそうです。そしてそれ以来、メールを交わすようになり、共演の機会をうかがってきたのですが、それが今年の「Christmas Gift 」で実現することになりました。
 様々な音楽の影響を、自身の音楽にとりこみ、生涯をかけてジャズと真摯に向きあってきたお二人のことです。40年近い歳月をこえ、必ずや音楽への献身で、ひとつの「感動」を生むことでしょう。
 共演者も、バークリー時代から親交のある達者なメンバーが選ばれました。プログラムはまったく未定ですが、〈イベリアン・ワルツ〉が再演されるかどうかは、時代の申し子であったような曲ですからね、わかりません。でもはっきりしているのは、貞夫さんのオリジナルに、マリアーノの曲やスタンダード。貞夫さんが新たに曲を書き下ろす、なんてことが一番うれしいんですけれどね。チャーリー・パーカー、没後50年にあたる今年ですから、パーカーへのトリビュートにもなるでしょうしね。と、私の夢もふくらんでしまいます(笑)。
 とにかく、「歴史的再会」の目撃者になるためにも、12月18日(日)は必ずオーチャードホールに足を運びます!
2005年12月ニュース 貞夫さん、「旭日小授章」を受章!
貞夫さんが、今年の秋「旭日小授章」を受章されました。これまでの功績と「愛・地球博」政府出展事業の総合監督としての献身的な働きを思えば、当然のこととも感じられますが、ポピュラー・ミュージック界初の受章と聞き、背筋がのびました。貞夫さんの音楽を「日本の宝」と思い敬愛してきた者としては、ジャズや自分たちファンまでがほめられたようで、うれしくてなりません。

11月末、友人たちが手作りのお祝いの会を開いたが、持ち寄られた会費は、ご本人の意向で「ケアフレンズ・東京」に寄付された。折にふれチャリティにも精力的に参加してきた貞夫さんのこと。「喜びを分ちあいたい」という精神は、音楽のみならず自身の生の根幹をなすものなのです。
貞夫さん、おめでとうございました!
渡辺貞夫 Christmas Gift Vol.13
2005/12/18(日)
オーチャードホール
東京音協 03(3201)8116
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