パット・メセニー(g)とブラッド・メルドー(p)の共演作第2弾が、到着しました!予告通り、今作はカルテットを中心にした作品です。題して『カルテット』。わかりやすい。
音楽も、実に明快に心にしみ込んできます。パットとブラッドという、今の音楽シーンを代表する2人ならではのポエジーとドライヴ感に溢れているではありませんか!11曲中7曲収められたカルテットでのすごみ。4曲で魅せた、デュオでのインタープレイ。その両編成に甲乙をつけようとは思いませんが、共演第1弾『メセニー・メルドー』が「静」だとすれば、今作には「動」が主体となった、音楽のムーヴマン(mouvement)があったのです。
2人が共作した、冒頭の〈ア・ナイト・アウェイ〉の高揚。パットの曲が7曲にブラッド(M3,M8,M9)3曲。ブラッドが書いたM3〈フィアー・アンド・トレンブリング〉に、21世紀を感じさせるスリルがあるから、パット作M4〈ドント・ウォールト〉でパットがアコースティック・ギターにもちかえ聴かせた、清浄なリリシズムが生きるのです。だからきっと、アルバムがダイナミクスをもった、あるいは静と動の対比が美しい作品だといった方が事実に近いでしょう。
そして続くカルテットで演奏されたM5〈トワーズ・ザ・ライト〉での、高音で鳴くギター・シンセサイザーは、パット・メセニー・グループ・ファンを嫉妬させるような、ユニットとしての一体感で高揚していくのです。パットらしい曲を、それだけに終わらせず、少しツイストしてみせるブラッドの個性が、また美しさを増幅させるのですが。

パット・メセニーとブラッド・メルドーが揃ってプロモーション来日したのは、2006年9月18日でした。パットはアメリカから飛んできて、インタヴューを受けまくり、たった1泊したのちパリに向かうという、いつもながらの強行軍。ワーナーミュージック・ジャパンは、彼らのために2部屋用意し、1部屋でインタヴューが行われている時は、次のインタヴュー・スタッフがもう一部屋で準備をするという極めて効率的なやり方で、(でも2人がよく話すので予定時間を超過しながら)行われました。その折、インタヴュー開始直前にパットが次のように囁いたのです。
「デュオ作は、ぼくたちの音楽的な成果の一部でしかない。こんな予告は今までにしたことがないけれど、ミックスしてみて自分でも驚いているんだ。カルテット中心の第2弾は、もっとすごいよ」
いつも、そんな予告ばかりなのに.....。そう言う暇もなくインタヴューが始まると、パットがカルテットのメンバーについてこう語りました。
「ブラッドがジェフ・バラードを新しいドラマーに迎えてレコーディングした『デイ・イズ・ダン』を聴いて、ぼくは心を決めたね。カルテットでいく曲は、ラリー・グレナディア(b)とジェフという、メルドー・トリオに頼もうとね。ブラッドがメンバー・チェンジをしたトリオで新境地を切り開いていた、『デイ・イズ・ダン』には驚いたからなぁ。ジェフ・バラードの特徴、素晴らしさは、そのモダン・ビートにある。どんな曲想、テンポの曲を演奏しても、彼のドラムでサウンドをまさに今の音にすることができるんだ。ラリー・グレナディアに関しては、『99→00』『TRIO→LIVE』といった、ぼくのアルバム3作に参加してもらっているから衆知の仲だ。だからぼくのグルーヴをわかってくれているのが、助かるんだ。ラリーは自分のリズムを、体内にもっている。そしてそのリズムの表現が、美しいんだ」
現行ブラッド・メルドー・トリオのメンバー+パットという布陣を中心に、構成されたこの『カルテット』。でも、メルドー・トリオに引っぱられるのでもなく、無理矢理パットのベクトルにもっていくのでもないところが、絶妙のバランスです。
たぶんそれはパットとブラッドの相性の良さに起因するのだろうと、2人を前にして感じました。もちろんパットの曲は彼がリードする面が多いし、ブラッドの場合も同じだと言えるのですが、お互いに相手を想定して書き下ろしている曲が多いから、『メセニー・メルドー』と『カルテット』は自然に相手が立つようにできているわけです。

さて、シーンを2人のインタヴュー時に戻しましょう。今ふれた相性の良さについて、もう少し書くとですね、2人の服装や髪型を思い出してほしいわけです。2人ともハンサムなのに、構わないでしょ。ブラッドのカンフーTシャツが、カワイイですけれどね、でも実は2人とも服なんてどうでもいいと思っている。2人は、昼食の相談もしていましたが、日本で食べるカレーライスが美味しいという話で盛りあがるところも、ミョ〜に合っている。もちろんブラッドにとってパットは、永年聴いてきた憧れのミュージシャンの一人だったのだから、先輩としてのパットを立てている面もあります。たとえばわたしが、ブラッドにばかり質問していると、気を使ってパットに話をふろうとする。そういう微笑ましい気使いはしていましたが、2人とも正直に何でも話せるようでした。
メセニー・グループの客演メンバーたちが、リーダーであるパットに少しの遠慮がありそうなのに比べて、パットとブラッドはプライヴェートでも対等でした。それはパットがどれほどブラッド・メルドーというピアニストを敬愛しているかという、証でもありました。

前作を紹介したときにも書いたから、わたし自身は聞かなくてもよかったのだけれど、来日時にもパットはブラッドに対する賛辞を話さずにはいられない様子でした。
「ブラッドがもしぼくが予想するような演奏をするとしたら、今のように魅せられているとは思わない。即興演奏はリスナーを引き込む以前に、まず共演者を魅了しなければならないんだ。彼は、よくアンユージュアルな音とコード進行を選ぶでしょう。そういうスペシャルな、でもぴったりくる音を見つけてくるのがブラッドなんだ。そのテイストに、ぼくは魅了されるわけ。クラシックの名演奏家に匹敵する、確かなテクニック。そのうえでのことだから、なおさらだ。20世紀の音楽をジャズに取り込む彼の作曲力は、永く語られていくね。演奏する時には、難しいからまいるんだけれどね」
パットはいつも以上に上機嫌で、3分に1回は大笑いをしながら話していました。一方ブラッドは、こんな風にパットとの共演を語りました。
「カルテットのようにグループの人数が増えてくると、リーダーや共演者に気をつかって、いつもの自分自身の演奏表現に歯止めをかけてしまうことがあるんだよね。でもパットとは、やってみて驚いたんだけれど、そんなことはまるでなかった。ドアを全開にしてくれ、さぁどこでへも自由に行きなさいと言われているような気分にしてもらえた。そしてぼくの演奏を集中力をもって聴いてくれているのが、演奏中にも感じられた。そして返ってくる反応がまた素晴らしいんだね。ぼくにとって永年の夢が実現したといえるこのプロジェクトだけれど、予想以上にぼく自身も楽しめたし、啓発された。カルテットのほかのメンバーにしても、同じことだと思うよ」

わたしは、「音楽のエクスタシー」について聞きました。エクスタシーを感じる音楽って、そうないじゃないですか。どこでクルかは、人それぞれなんですけれどね。
パットとブラッドの音楽の展開は独特で、起承転結という形をとらないことがあるんです。クライマックスのくるところが、聴き手の想像と異なって、起承転結でいえば起承承承承と、とぎれることなくエクスタシーが続くことがあるのんですね。わたしはそこが好きなわけ。
パットはハービー・ハンコックのピアノを例にとって、言いました。
「ハービーの演奏の域に達すると、音楽のどの部分を切りとってもエクスタシーそのものだ」
ブラッドは、わたしがカッコをつけて使った「ミル・プラトー(千の高原)」ということばを熟知していて、「それは高原を超えればまた高原が続くという連続したエクスタシーというものがあるのではなく、ひょっとしたことで超えた先に開けた地平をまた土台にして、そこから再び高みを目指す地道な作業をくりかえすことで、結果的に音楽がエクスタシーに達し連続することも可能になるのだ」と語りました。
その伝でいくと、今作が2人の共演作の最後だとは、わたしにはとても思えないのです。次の高原が、出現するのは自明の理というものでしょう。
ブラッドに聞きました。即興演奏と作曲のちがいは、どこにあるの?
「即興演奏とは瞬時にする作曲のことだと思う。まっさらな心の譜面というものは、実はないんだと思うんだよね。誰もの潜在意識に、多大な音楽的蓄積があるはずだから。ぼくが即興でクラシックやポピュラー音楽から、無意識的に音楽的要素を引っぱりだしてきたとしても不思議はないわけ。ずっと聴いてきた音楽なんだから。ただ、作曲家としてのぼくはまたちがう想いをもっている。自分の作った曲と、それをある種『壊す』即興演奏のはざまで、葛藤するんだ」
わたしはもう、どこまでが書き譜でどこが即興部分なのか、聞きませんでした。それは2人の共演ライヴを見られる日まで、とっておきたい課題でもあったからです。
パットとブラッドの聴き手であることは、容易じゃない面もあると思いませんか。普段は考えもしないことを、さぁ考えようと、音楽が要求してくるんですから。

パットが、インタヴューの最後に、お得意の予告をした。
「2007年の秋、そうだな、9月の終盤しかスケジュールが空いていないから、そうなると思うけれど、日本でもブラッドとのコンサートを実現できそうなんだ。楽しみにしていてほしい。いや、一番楽しみにしているのは、このぼくかな」
そう言ってまた高らかに笑うと、次のインタヴュー部屋に向かっていきました。その後、今年の春一番が吹いてから、パットとブラッドが9月末に来日し、日本全国ツアーを敢行するというニュースが入ってきました。パット・メセニーとブラッド・メルドーの北米ツアーのスケジュールも、eメールで送られてきたんですが、これがコロラド州の5カ所をキックオフに、3月中旬から4月中旬まで、ぎっしり。ほんとうは、行きたいわたし。でも、パットが言っていたのです。
「今から、楽しみだなぁ。ますますイイ音楽が、作れるだうな。ライヴは違った次元だからな」
そうでした、彼のツアーは後になればなるほど好いことが多いんです。楽しみにしましょう。東京で観られる日まで。秋なんて、夏の後、すぐですから(ちょっと無理してるかしら)。
で? はい、かぶりつきに座ります(爆)。
パット&ブラッドのライナーも書き上げ、3本ライナーが書き上がったので、ごほうびに犬吠崎へ行ってきました。
高村光太郎&智恵子ゆかりの、ぎょうけい館でお昼をたべ、地球が丸く見える丘にも行って。ほんと、海に囲まれた地形ですから、地球が丸いってことがよ〜 くわかりました。海は好いですね♪
パット・メセニー&ブラッド・メルドー
『QUARTET / カルテット』
ワーナーミュージック・ジャパン
WPCR-12588
2007年3月28日発売予定
PHOTO:WARNER MUSIC JAPAN
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権利者の許可を得ずに、複製することを禁じます。 |
PHOTO:WARNER MUSIC JAPAN
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カルテット
ジャパン・ツアー2007
公演スケジュール
9月22日(土):水戸
茨城県立県民文化センター
9月24日(月):名古屋
愛知厚生年金会館
9月26日(水):東京
NHKホール
9月27日(木):東京
NHKホール
9月28日(金):大阪
NHK大阪ホール
9月29日(土):鎌倉
鎌倉芸術館
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ハーモニー・ジャパン:03-3409-3345