中川ヨウのミュージック・ダイアリー

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上原ひろみのタイム・コントロール法

[2007.04.06]
 新年度ですね!いかがお過ごしですか?
 新年度や、お正月といった時間の区切りはいいですね。そういった区切りがなければ、13月、14月、33月と、エンドレスに時が続いてしまい、気持ちを新たにするチャンスがなくなってしまいますから。

 「時間」は誰にとっても、ある種の制限です。1日に24時間という制限は、大変平等なのですが、わたしたち人間は「死亡率100%」なので、だからこそその限られた時間をどう使うのか、わたしたちは常に煩悶することになります。
 と同時に、時間に対する感覚は、年齢や状況で変わります。南国の人はおしなべて時間感覚が大らかですし、若いときの方が、時間に対してあせる感覚をもつようです。また誰でも死に直面すると一日、一時間が貴重なものになります。でも、死に直面しなくても、ジャン・コクトーが言ったように「死」から「生」を見ることができるなら、わたしたちは「今」を死期の目で見、一瞬一瞬を大切に生きるはずなのですが。

 かく言うわたしは、時間の使い方が、自慢できるほど下手。いつも書かなければならないお礼状が山積で、友人に送りたいCDも山盛りで、ぼ〜っとするのも大好き。締め切りぎりぎりにならなければ、いいアイデアもでてきません。今もお花見に行きたいし、実はアルゼンチン・タンゴを踊れるようになりたい。
やりたいことだらけ。でも、時間が足りません。。。
 もっと巧く時間を使いたいと、思ったこともあるんです。でも「巧い時間の使い方」的指南書を買っても、読むのに時間を使った上、いっこうに日常が改善される気配はなかったのでした(笑)。
 そんなわたしなので、時間を巧く使える人を心から尊敬しています。スケートでトリプル・サルツ(ジャンプ)を飛べる美少女同様、リスペクトをもって見つめます。
 こんなことをつらつら書いたのは、上原ひろみの新作『タイム・コントロール』を聴いたからです。時間をテーマにしたアルバムなんですね。時間の考察が、サウンドでなされていました。「時差」も見事に音になっていましたし、最後の「ライムズ・アップ」まで、面白いコンセプト・アルバムになっていました。
 初めての、全編エレクトリック。今までのトリオにごっつい実力のギタリストを加え、整ってきていた(トリオの)正三角形を壊すことにも成功していました。文句なくカッコイイ。と同時に、音を聴いてわたしは思ったのです。あ、彼女は今時間が欲しいのだな〜と。

 で? 東京で会う時間をもらいました。時間ドロボーかもしれません(笑)。まずはゲームから始めました。オフが一日あったら何をする?一週間なら、一ヶ月あったら? きれいになったひろみちゃんが、間髪をおかずにいいました。
「一日あったら実家に帰りますね、浜松の。一週間でも実家(笑)。のんびりします。一ヶ月なら海の見える所にピアノを運んで、優雅な生活をしてみたいですね」
 上原ひろみは話題のピアニストですから、あなたも彼女のことは知っていらっしゃるでしょう。1979年静岡県浜松市に生まれ、6歳よりピアノを始め、同時にヤマハ音楽教室で作曲を学んだという早咲きの花。17歳でチック・コリアに絶賛されて、バークリー音楽大学在籍中にテラーク・レーベルと契約。
2003年に『アナザー・マインド』でいきなり世界デビューを果たし、以来数多くの賞に輝き、NYブルーノートで一週間公演を成功させ、日本でもドリカムやタップの鬼才、熊谷和徳とコラボと、今、most活躍中のピアニスト、作曲家なのです。
 で、今回ひろみちゃんの時間の使い方を聞いて、心底びっくり。
「起床時間も前の日に決めるんですが、まず部屋を換気して、練習の準備のストレッチをして練習。はい、もちろん1日を音楽を中心に組んでいくんです。昼食を作る時も、煮込み料理ならその間にスケール練習をします。生活はピアノ弾いているか、食べているか、眠る。これしかありませんね。映画ですか? “行使”することはありますけれど、映画は特別プランですね(笑)」
 その練習にも、順番があるのだそうです。まず指の準備にスケール。ついで指の独立によいバッハ。頭を使うのに、それに比べて手はそれほどにはハードじゃない点が、二番手にぴったりなのだそうです。それからモシュコフスキーのエチュード。激情型です。次はだいたいモーツァルトと、クラシックを2〜3時間弾く。その後、その時々耳にした気になるスタンダートを弾いたり、作曲をしたり。
「すごい!時間を自分自身でコントロールできるんだ」。
 口をあんぐりと開けたわたしに、ひろみちゃんが微笑みかけました。
「コントロールできるかどうかは判らないけれど、気持ちの余裕は調整可能ですよね。それには、『好きでそのことをやっているんだ』と思うことでしょうか。いつもプラスにもっていけるように、マインド・シフトしていきます。体力的に大変なことはあるんですけれど、いいライヴ、アルバムができると、それで充分チャラになりますから」と、聞けば聞くほどエライ!のです。
 21世紀の展望を聞いたときは、耳が痛かったですね。
「人は欲求はもつんですが、それに見合う努力は、なかなかしませんよね。環境問題でもよくしようと思えば、よくなるんじゃないでしょうか」
 先日会った、ミシェル・ルグランも「努力」が大切とのたまっていました。ひろみちゃんからも、努力の二文字が登場したのです。
  そうか! わたしに足りないのは、「時間」ではなく「努力」だったのです。そのくせ、あれもこれもしたいという、欲求ばかり多かったのね。努力を増やして、欲求を減らす。よし!わかった。そうしましょう。

 「ハイ、モシモシ。あっら〜、元気? 今、原稿書いているの〜 え、次の週末にE組(中学)のクラス会があるの?
エリと有子ちゃんが幹事なら、モッチロン行くでしょ。 大丈夫、大丈夫。時間ならあるわ〜」
 やれやれ。
ソニースタイル・ジャパンの元社長・佐藤一雅さんが、異動でSony本社に戻られることになりました。 佐藤さんは、ソニスタの素晴らしきキャプテンでした。そのキャプテンシーに、多くのことを学ばせていただきました。
今まで、ありがとうございました!

上原ひろみ
「タイム・コントロール」

ユニバーサル ミュージック
UCCT-1181
2007年2月21日発売

権利者の許可を得ずに、複製することを禁じます。
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