中川ヨウのミュージック・ダイアリー

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夏休みに聴きたい歌声Vol.1 ビョーク『ヴォルダ』

[2007.07.29]
 ビョーク。アイスランドが生んだ鬼才。独自の世界観を、無垢な歌声で歌うシンガーです。
 でも、実はビョークは魔界の人。そう思わせる、毒をはらんだ、強力な磁力をもっているのです。

 ラース・フォン・トリアー監督が、死刑の是非を問うたミュージカル映画「ダンサー・イン・ザ・ダーク」(2000年)の主演に迎えたことで、一層知名度を高めたビョーク。この映画はカンヌ映画祭で、パルム・ドールを受賞し、ビョークは主演女優賞を手にしたのでした。
 トリアー監督は、空港で彼女の子供に触れようとしたリポーターに、パンチをおみまいしたビョークの映像を見て、映画への起用を決めたと聞きました。そのエピソードが語るように、ビョーク自身強烈なキャラクターの持ち主ですが、家族思いで、アルバム制作から離れていたのも、2002年に第二子を出産してから子育てに追われていたからだそうです。
 そのビョークのサウンドは、パーソナリティと同様、ユニーク(本来の唯一という意味で、です)。約3年ぶり、6枚目のスタジオ・アルバムにあたる新作『ヴォルタ』で、その真価を発揮しました。
 『ヴォルタ』で、ビョークはパーカッションを駆使した重層的なサウンドを聴かせます。そこにアコースティックな楽器をかぶせる、そのミックス感覚が立体的でユニークなのですね。
 そのサウンドがつくる音の洪水。その水面下から、ビョークの歌が聴こえてきます。そしてサウンドのうず潮に、聴き手を引きこむのです。
 船乗りを水面下に誘いこむセイレーンの伝説がありますが、この新作を聴いて私が想起したのも、ビョーク=セイレーンのイメージでした。
 でも、ビョークがしっかり「設計図」をかいたうえで、そう歌が聴こえるように『ヴォルダ』を作っているのは明白です。まんまと、のせられているわけですが、その意図をふくめて、セイレーンだと思いますね。

 そうかと思えば、パンク少女だった頃の“叫び”が戻った楽曲もありました。また、アントニー・ヘガティとデュエットした〈マイ・ジュヴナイル〉には高い透明度が。
〈アイ・シー・ユー・フー・ユー・アー〉(メーク・ベル・ミックス)には明るさもありました。
 参加者はティンバランドという独自のビート感覚をもつ人気プロデューサーの他、母国アイスランドから、10人の女性ブラス・セクションを招いています。
 加えて、マリ出身のコラ奏者、トゥマニ・ジャバテ。中国琵琶のミン・シャオ・ファン。アヴァンギャルドな演奏で評価の高いライトニング・ボトルも、21世紀的なノイズを添えています。
 そのグローバルかつローカルな、「グローカルな」ミュージシャンばかりを結集して、自身のサウンドを構築する。それはとても21世紀的な作業のあり方で、しかもそこで個性をだせるのは、ビョークのような強さがあってこそなのでしょう。
 ちなみに、ジャケット写真の着ぐるみは、ドイツ出身のデザイナー、ベルンハルト・ウィルヘルムの作品。びっくりですよね。
 異ジャンルのアートとコラボしたいという渇望も、彼女がずっともち続けてきたものです。
 ビョークの個性は、21世紀も益々濃度をあげそうな気配です。
 ビョークに聞いたことがあります。
「あなたの歌声はどこからくるの?」
「わからないわ。どこからっていわれてもね。でも、生まれたアイスランドの自然と関わっていることは否定できないわね」
 ビョークの歌声が、果たして本当に魔界からくるものなのか、育ったアイスランドが育んだものなのか。自分の答えを求めに、いつかアイスランドに旅したいと思っています。

ビョーク
「ヴォルタ (Volta)」

ユニバーサル ミュージック
UICP-1083
2007年5月2日発売

権利者の許可を得ずに、複製することを禁じます。

【つづらの話し】

翻訳家の友人、横山悦子さんから「つづら」の文箱をいただきました。
日本橋人形町にある、「岩井つづら店」のことは、私も耳にしていました。 元禄時代初期、神田の職人によって誕生した工芸品・つづら。昭和初期には全国で250軒ほどあったつづら屋も、都内ではこの「岩井つづら店」を含め2店舗のみとなってしまったそうです。 衣料品や呉服類を収納するために使われたつづらも、現在では希少価値のある民芸品として、再び人気が高まっています。
私がいただいたのは、江戸末期に人形町で創業し、先代からの技術を継承した岩井良一さんが手作りされたもの。 好きな「朱」で、家紋は夫の「渡邊」、それに名前まで入れてくださり、大感激! このつづらのなかに、うれしい便りがたまりはじめました。

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