先回のミュージック・ダイアリーでは、東京ミッドタウン内に新しくできたクラブ「ビルボード東京ライブ」のことを書きましたが、港区には、他にも名立たるジャズ・クラブがいくつかあります。老舗で、しかもクラブのオーナー(ママ)が、独自の見識眼で演奏者を決めているジャズ・クラブが2軒。ボディー&ソウル(京子ママ@南青山)と、アルフィー(日野元彦夫人である、ようこママ@六本木)です。日本人若手ミュージシャンにとっては、「あの店で演奏できるようになりたい」という目標になっていますし、いつ行ってもハズレがない、得難いお店だといつも感心しているわたくしです。
他にも、サテンドールは、店主が「サテンドールでしか観られない」ミュージシャンの共演を組んだりしていて、興味深いのです。たとえば、赤木りえ、井上信平、城戸夕香という、3人のフルート奏者の共演があったのも、そのサテンドールでした。
そして、(ほとんど)海外からのミュージシャンでラインアップを組んでいるのが、ブルーノート東京です。N.Y.の名門ジャズ・クラブ"Blue Note"の姉妹店として、1988年11月にオープンした、青山にあるこのお店。
海外ジャズ・ミュージシャンの演奏を、間近で観られるというコンセプトが新しく、次第に多くの観客に愛されるようになり、今では繁盛店になりました。来年、開業20周年を祝うというのですから、ブルーノート東京はお店としても「老舗の中堅格」になったといっていいでしょう。
骨董通りから、根津美術館の方に入った現所在地に場所を移してからが、新たな快進撃のはじまりでした。客席数も約300人ちょっとと、ぐっと多くなったのに、ちょうど青山にブランド店が多くオープンしたときと重なり、いいブームを作ったのです。「ちょっと行ってみようか」というお客様でにぎわい、その観客がまた再びお店を訪れたのは、ブルーノート側の温かい対応があったからでしょう。固定ファンがつき、今も多くの観客が足を運んでいますが、それは「音楽を聴く場」という核になるヴィジョンをもち、「ミュージシャンたちにも心地よくすごしてもらう」という、この2点を大切にしてきたからだと思います。

さて、そのブルーノート東京が、ビルボード東京ライブの開店と同じ日に、リニューアル・オープンをしました。
ボックス・シートを増やし、ウッディな囲いをそのボックス・シートにつけ (ただしチャージがかかります)、絨毯も替えたのですね。すっかり変わったというわけではありませんが、きれいになりました。
そのリニューアル・オープン第2弾に登場した、ディー・ディー・ブリッジウォーターのライヴの模様を、今日は書いておきたいと思います。

ディー・ディー・ブリッジウォーターのライヴでは、期待以上のエンターテインメントを見せてもらうのが常ですが、近年拠点にしているブルーノート東京での公演、しかもリニューアル・オープンとあって、彼女の熱意がいつも以上に熱く伝わってきました。
表現者は「言いたいこと」があるときに、その力を最も発揮するものです。シンガーも同じこと。ディー・ディーは今回、自身がルーツと信じる国を見つけた喜びで、あふれかえっていました。
新作『レッド・アース』でも表明されていましたが、それはマリ共和国だったのです。彼女の話から、その出逢いを書いてみます。1999年、彼女は国連食料農業機関(FAO)初の親善大使に選ばれました。以来、FAOのプログラムに参加しているアフリカ各地を訪れてきたのです。彼女は、同時に各村の音楽の採集も行ないました。そして2004年、マリにおもむいたのでした。
「マリの音楽は、リズムも内容もなつかしく、風景に人、すべてがわたしにとってはなつかしいものでした。空港に降りた途端に、ある老人から気さくに現地のことばで話しかけられましたが、わたしを現地の女性だと思ったそうなのです。ある部族とわたしの外観が酷似していることを、後になって知りました。レッド・アース、赤い土への愛着は、母が強くもっていたものでもありました。アフリカン・アメリカンは遠い昔に集団拉致され、アメリカ大陸に連れてこられ、奴隷として働かされた歴史があります。わたしたちにとって自分探しの旅は、先祖の地を探すことと重なるのです」
ディー・ディーはモンゴ・サンタマリア作曲の〈アフロ・ブルー〉を、マリのリズムで歌いました。メンバーは、いつものアイラ・コールマン(b)をはじめとするヨーロッパ勢でしたが、そのリズムでブルーノートをマリの色彩で染めたのです。歌の間奏では、アフリカン・ダンスも披露。さすが、ブロードウェイ・ミュージカルで、エミー賞を獲得した実力です。その喜びに包まれ、躍動するディー・ディーを観ることで、わたくしもジャズの潮流をアフリカの源へとさかのぼる、時をこえた旅を共有しました。
ほかにもスタンダード、クルト・ワイル作品にシャンソンと、ディー・ディーの今までの活動を総括する内容だった今回。エンターテインメント精神も、いつも以上に発揮されたのです。フランス語をまじえて歌った〈ガール・トーク〉では、彼女が創作した一夜の恋物語がラップ状で挿入され、愛の交感を、おかしげな身振りで表現。明るく肯定されるセクシーさに、会場からも歓声があがりました。パリのキャバレーがもつ大人のための濃密な雰囲気を、本格派ジャズにもちこめるのは、彼女だけの至芸といっていいでしょう。
アンコールでは、客席もダンス、ダンス!総立ちでおくられた拍手は、マリに再度レコーディングに向かうというディー・ディーへの、最高のはなむけになったのでした。
そのマリ第2弾ができるまで、ぜひ『レッド・アース』を聴いてみてください。アフリカ、マリのすばらしいミュージシャンや、特に女性シンガーたちと嬉々として共演する、初心にかえったディー・ディー・ブリッジウィーターがいます。その歌と、ルーツに出逢うことの一人の人間としての喜びに、動かされること確実です。
新しいジャズ・クラブができることは、わたくしにとっても、大変うれしいことです。同じパイの奪い合いにならないよう、各店に個性を発揮してもらい、新たな顧客を獲得していただきたい。そして、ジャズを聴くにはライヴに勝るものはありませんから、わたくしたちも、今より足しげく、ジャズ・クラブに出向きたいものです。


ディー・ディー・ブリッジウォーター
「レッド・アース」
ユニバーサル ミュージック
UCCM-1109
2007年4月18日発売
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