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中川ヨウのミュージック・ダイアリー

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ゴンサロのグローカルなニュー・クインテット作

[2008.03.13]
 キューバが生んだ鬼才ピアニスト、ゴンサロ・ルバルカバが、新たな挑戦に挑んでいることを知ったのは、2007年11月のブルーノート東京での公演を聴いたときでした。
 ゴンサロは、2管を配したクインテットで来日していました。ヨスヴァニー・テリー(as,ss) とマイケル・ロドリゲス(tp,flg)の2管が甘い音色で音を重ね、やわらかな色彩をうむと、対照的に硬質なゴンサロのピアノが、そこに斬り込んでいきます。
 それを支えるリズムは、どこまでも立体的で、縦横無尽に躍動をうんでいく。が、その縦横もゴンサロのなかでは考え抜かれたバランスなのであって、躍動を体内にもち、ジャズをも熟知しているキューバ生まれの彼にしかできない、立体的に構築されたジャズがそこにありました。

 演奏後、ゴンサロが話してくれました。
 「今回の公演では、2008年に発表する『化身/アヴァター』からの新曲を主に演奏した。新作は、当初トリオでスタンダード集を作る予定だったのだけれど、それでは今までの路線を踏襲するようで、ぼく自身気分が高揚しなかった。で、このメンバーを集め、クインテットで挑戦することにした。ぼくと同郷の、キューバ出身のサックス奏者、ヨスヴァニーとの出逢いが、そのスタートのボタンを押した。以前から、トリオではなく、少し大きめの編成を視野に入れていたから。もっと色彩がほしくてね」
 ゴンサロは、メンバーを一人ひとり紹介してくれ、こんな風に、ことばをそえました。
 「こちらはニューヨーク出身の、トランペットとフリューゲル・ホーン奏者、マイケル・ロドリゲス。彼がデモ・テープを送ってきたのがきっかけで、知りあった。初めて共演したのは、ぼくが彼をチャーリー・ヘイデンに紹介しレコーディングした『ランド・オブ・ザ・サン』のときで、ツアーも一緒に出たから気心も知れている。ベースのマット・ブルーワーは、意見を聞いたブルーノートの社長、ブルース・ランドヴァルの推薦リストにあり、クラブに聴きに行ってすぐに気に入った。難曲や難しいリズムでも、オープンなマインドで臨む、得難いベーシストだ。そしてこの21歳の若きドラマーが、マーカス・ギルモアだ。いや、彼はキューバ出身じゃないんだよ。ロイ・ヘインズのお孫さんなんだ。ミュージカルなドラマーでしょう?すばらしいテクニックの持ち主だ。
 皆、ぼくより一世代若いミュージシャンなんだが、オープンにジャズからクラシックまでを聴く、広い音楽的視野が共通項だね。レコーディングを終え、こうして長年ぼくの音楽を支えてくださった日本の聴衆の前 で演奏してみると、このニュー・グループと新作が、ぼくの音楽に発展をもたらしてくれたことを確信しているところだ」
 明るく語る彼のこのことばが、新作を心待ちにさせたのです。
 年が明け、『化身/アヴァター』が届くと、再びゴンサロの話が聞きたくなり、電話をしてみました。彼が言った「発展」が、新作にみなぎっていたからです。まずタイトルのことから、聞きました。
 「『化身/アヴァター』は、あるコンセプトと、思いがけないことの連続といった意味の双方をふくませて名づけた。そして具体的には、このニュー・クインテットでレコーディングをした(07年5月29日-6月1日)、ニューヨークのアヴァター・スタジオの名前でもあるんだ。『化身/アヴァター』は、出身地や音楽のバックグラウンドをこえた、まさしくニューヨークならではのグループであり、サウンドだからね。ぼくたちは、3週間ツアーをした後、スタジオに入った。ぼくにとっても、ジャズにとってもフレッシュなエレメントをもっていたから、今作ではメンバーの曲も多くレコーディングした」

 続いて彼は、先に紹介したブルーノート東京での会話を覚えているかのように、ヨスヴァニー・テリーとの出逢いを話しはじめました。
 「ヨスヴァニーはぼくより10歳くらい若い、30歳代のアルト/ソプラノ・サックス奏者で、ぼくがまだキューバで活動していた頃、よく聴きにきてくれていた。彼がニューヨークに拠点を移し、再会を果たしたのだが、その間もヨスヴァニーのCDは聴いてきたし、評価していた。いつか一緒に演奏したいと思ってきたが、今回がまさしく最適なタイミングだった。ヨスヴァニーとなら、スムーズにキューバの音楽言語を使うことができる。そしてマーカスのドラムを聴いて、あなたがキューバ出身かと錯覚したように、このグループには、キューバがアメリカのジャズから受けた影響だけではない、アメリカのジャズがキューバから受けた影響もつまっている。今作でぼくは、アレンジとプロデュースも担当したが、優秀なメンバーが揃っていたから、何の躊躇もなく、やりたい音楽に挑戦することができた」
 印象に残った曲を、ゴンサロ自身に解説してもらいました。
アスピリング・トゥ・ノーマルシー
「マット・ブルーワー(b)が書いた曲。ぼくは、この曲をコンテンポラリー・ロマンティックのカテゴリーだと思っている。マットが受けたクラシックからの影響が、ジャズで開花しているためだ。マットのテンポ、リズムのセンスには脱帽だ。どんなにドラムスが難しいリズムを繰りだしても動じない、若いのにマチュアなミュージシャンだからね」
ヒップ・サイド
「(本作でとりあげた)ヨスヴァニーの作曲、3曲目。彼の曲は、ぼくの初期の曲に似ている面がある。そしてそれは、ぼくにとってうれしく、新鮮なことでもあるんだ。ここでの演奏は、誰が言うともなく『1980年代のゴンサロのキューバン・カルテットをカヴァーしよう』という雰囲気で演奏した」
インファンテル(ジョン・マクラフリンに捧ぐ)
「これは、楽しみたくて収録したぼくのオリジナル。ジョン・マクラフリンに捧げて、かなり以前に書いたものだが、今回が初演。人は”内なる子供 (インナー・チャイルド)”を、まま隠すもの。でも、ジョンはそれを隠すことなく、いい意味で子供のままだ。そういった彼のフレッシュさと明るさを表現した。1970年代の彼の音楽にインスパイアされ、この曲ではキーボードも重ねてみた」
プレリュード
「ぼくはいつもアルバムのなかで、ラテン・アメリカの作曲家を紹介するようにしているのだが、今作では20世紀中盤に活躍したキューバの作曲家、アレハンドロ・ガルシア・カトゥーラ(1906-1940) の名曲をとりあげた。元来の作曲の美しさに、この曲ばかりは一切の即興はなし。カトゥーラはヨーロッパでストラヴィンスキーと親交を深め、主に1930年代にすばらしい作曲を残した作曲家。カトゥーラは夭折したために、広くは知られていないので、今後もぜひ取りあげていきたい。この曲の役割はほかにもあって、前作にあたる『ベサメ・ムーチョ〜ゴンサロ・ルバルカバ・ソロ・アルバム/SOLO』につながる曲でもあるんだ。前作と今作をつなげるものが何かないかと考えたとき、この曲からアイデアがうかんだ。ハーモニー部分を作って、五重奏になるようにアレンジすることで、アルバムとこの作曲が違和感なくとけこんだと思う」
 ゴンサロが作曲家や参加ミュージシャンをほめてやまないように、彼のファンなら、彼のピアノがみせる成熟を、ほめないではいられない。1963年5月27日にキューバに生まれたゴンサロは、2つの音楽大学でピアノと打楽器を収めただけあり、そのジャズは初期からリズムに対する斬新な切り口をもっていました。
 デビュー当初は、超絶技巧ばかりが話題になったものですが、90年代前半に多作にして多忙なエスタブリッシュの時代を迎え、それ以降は少ない音数に魂をこめる演奏も聴かせるようになりました。

 動と静、いずれにしても高いポテンシャルは変わらず、演奏時にみせる高い集中力で、昔は聴衆を置き去りにすることもありました。
 「同じ難曲でも、キューバン・カルテット時代より、聴きやすく、ハートも感じられる」
 わたくしがそう言うと、ゴンサロは「成熟すると、バランスをとるようになるものだから」と言って笑っていました。
 そして、次のように続けました。
 「人は皆、使命をもっているのだと思う。ぼくの場合は、音楽しかない。音楽にこれからも邁進していく。 その決心を、この『化身/アヴァター』で新たにした。 今冬はアメリカ・ツアーにでるので、またバンドとしての結束が強まることだろう」
 21世紀に入り、音楽が「グローカル」な傾向を強めています。このダイアリーでは、既におなじみのことばですが、グローカルとは、グローバリゼーションとローカリゼーションを合わせた造語です。グローバルな広い音楽的視野に立ちながら、ローカルな自身のアイデンティティを強く取り入れた音楽が増えている昨今。

 ゴンサロ・ルバルカバの新作『化身/アヴァター』を聴き、現在の彼の音楽がまさしくその好例だと感じているわたくしなのです。

ゴンサロ・ルバルカバ
『化身/アヴァター』

EMIミュージック・ジャパン
TOCJ-66433
2008年02月27日発売

権利者の許可を得ずに、複製することを禁じます。

「水瓶座の集い」で、ブルーノート東京へゴンサロの新クインテットを観に行きました。
左から仙台のドクター本多さん、クラシックのピアニストで洗足学園大学の同僚でもある、武見由美子さん、ホロトロピック・ネットワークの山崎佐弓さん、CDの発明家で作家の天外司朗さん、ゴンサロ&ヨウ。
皆で、ゴンサロたちの驚異のテクニックとリズム感に、口をあんぐり。「修行僧のようだ」との天外さんの言葉に、一同うなずいた。

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