個性溢れるアルト・サックスで、半世紀近く聴衆を魅了してきた
デヴィッド・サンボーン、3年半ぶりの新作が、ブルーズを讃えた作品として完成しました。『ヒア・アンド・ゴーン』。米DECCAと新たに契約した、移籍第一弾でもある新作です。
フュージョン・シーンをリードしてきたデヴィッド・サンボーンが、なぜブルーズなのでしょうか。わたくしが書くより、彼自身に答えてもらいましょう。ニューヨークの自宅に電話してのインタヴューを、お聞きください。
「それはブルーズが、ぼくのルーツだから。ぼくが小児麻痺のリハビリの一環として、アルト・サックスを始めたことは知っているよね? 人前でプレイしたのは、15歳のときに地元のブルーズ・バンドに参加したのがスタートだった。60年代にはポール・バター・フィールド・ブルース・バンドに在籍し、B.B.キングなど多くのブルーズ・メンの胸を借りてきた。でもアルバム単位でとりあげるのは、今回が初めてのことになる。ずっと温めてきた企画だったけれど、ここにきて、自分の原点を見直したいという思いにかられたんだ。ブルーズはぼくのルーツであるばかりか、すべてのポプュラー・ミュージックの父。ブルーズが語る率直なエモーションは、今の時代にこそ必要とされるものではないだろうか?」

サンボーンは今作をW.C.ハンディが1914年に作曲した古典的ブルーズ〈セント・ルイス・ブルース〉で、スタートします。哀愁のあるメロディを奏するサンボーンのサックスが官能的で、聴き手の胸をこがします。ルイ・アームストロング、ベッシー・スミスをはじめ数々の歴史的名演が残るこの曲ですが、
ギル・エヴァンス(arr、kyd)のアレンジにのっとって演奏したのは、古典ブルーズと現在をつなげたいという、サンボーンの意欲からでた選択なのですね。
同時代にスペンサー・ウィリアムスが作曲した〈ペイズン・ストリート・ブルース〉も取り上げ、その曲では、ちょっとエレガント目なアレンジで仕上げ、優しいブルーズを聴かせます。
全般的にいえることですが、サンボーンの熱演はもとより、オルガンやホーン・セクションを配したアレンジの素晴らしさが、本ブルーズ作を成功させた大きな要因でしょう。フィル・ラモーンのプロデュース力も、その力に比べれば小さいくらいです。
サンボーンは、各時代の名アレンジを使って、またそのことを明記し、ブルーズが世紀をまたいで生き続けてきたことを音で伝えてくるのです。
豪華ゲストも多く参加していますが、その人選にもサンボーン自身があたりました。やはりブルーズをルーツとするエリック・クラプトンも、〈アイム・ゴナ・ムーヴ・トゥ・ザ・アウトスカーツ・オブ・タウン〉でしぶい喉とギターを聴かせ、2人して濃密なブルース・スピリットの掛け合いを聴かせます。
サンボーンが絶賛する20歳代の英国出身のシンガー、
ジョス・ストーンが歌う〈アイ・ビリーヴ・トゥ・マイ・ソウル〉も、どこまでも熱い。
御大サム・ムーアが歌い、サンボーンも吹きまくるラストの〈アイヴ・ガット・ニューズ・フォー・ユー〉まで、ブルーズへのオマージュとして、これほどサンボーンの率直な気持ちが出たアルバムはちょっとないと思います。
それも、ブルーズのなせる技でしょうか。
一昔前までは、サンボーンのエッチすれすれの音色のファンでしたが、今は官能以上のサムシングを伝えてくるそのアルト。
自身の意欲の源泉を、彼はこんな風に語りました。
「以前は、エゴを音楽活動の源にしていた頃もあった。でも、今はより真実を伝えたいと考えるようになったかな。そのためにしていること?誰も時からは逃がれられない、アンチ・エイジング流行りの昨今だけれど、その風潮には賛同しないね。年齢を重ね、表現が深くなることを喜ばしく感じている。と同時に、ぼくには子供の頃の病気があるから、健康維持のためにシンプルな生活をする必要がある。フェイス・リフトやステロイド使用など断じてNo。ストレスの軽減を心がけ、食べ物も蒸した野菜や、蒸した鳥や魚に限定している。調味料も、岩塩を少し。果物を少々、甘いものは食べない。そしてエゴを脇に置いて、無心で音楽に臨むのが、ぼくのメディテーションだろうね。
ミュージシャンって、意外かもしれないけれどアスリートのようなもので、いつも鍛錬をし、身体の調整をしなければならない。活動の源泉も、実はそういった一見地味な生活の積み重ねといってもいい。長旅をし、時差と闘う。変化が多い生活のなかで、いい睡眠をとるよう最善を尽くし、どうよいペースにもっていくかが、肝心なんだ。そうして今、一音に、より深い意味をこめて届けられるようになったと思っているよ。」
サンボーンとは30年近く音楽を通じた友人ですが、彼が自らの生活態度を聴き手に紹介するのは、初めてのことかもしれません。ストイックなダイエットも、いい演奏のためなのです。真似ができることではありません。
そういえば、わたくしがお世話になっている神宮前鍼療所も、15年ほど前にサンボーンに紹介してもらったのでした。彼は世界中の優れた鍼灸治療院のリストをもっています。それは決して健康オタクなのではなく、いい音楽を、そうした日々の努力やリサーチによって生み出しているわけなのです。
そしていうまでもないかもしれませんが、サンボーンは優しい、いい人なんです。繊細で、でも他者には心が広く、平安な氣をまとっています。その彼が、本来は熱い人だということは、このブルーズ作を聴けば、よくわかっていただけるでしょう。
サンボーンが、付け加えました。
「すべては変化するもの。歳を重ねると、変わるのが大変になるけれど、それでもよい方向に変化することを恐れてはいけないと自戒している。自分の歴史、そして人類の歴史に敬意を払うべきだが、その奴隷になってはいけないからね。例えば、今アメリカ合衆国では大統領選の最中だけれど、次期大統領がアフリカ系、もしくは女性になる可能性が高い。そんな新たな時代が、やってきているのだから。」
ヒラリー・クリントンが撤退を表明する以前のインタヴューでしたが、サンボーンは、「今は誰にとっても大いにチャレンジしがいのあるときだ。」と、言葉を結びました。
チャレンジ!ですか。
ブルーズは、憂鬱を吹き飛ばす音楽。梅雨時にぴったりですが、『ヒア・アンド・ゴーン』はもうすぐ発売になりますから、待っていてください。
では、わたくしも今年の夏は、何かにチャレンジしてみましょうか。さしずめ、マニュアルの運転と、内面的にはおっちょこちょいを直すことに挑戦したいですね(笑)。
あら〜、これは大仕事になりそうです。
デヴィッド・サンボーン
『ヒア・アンド・ゴーン』
ユニバーサルミュージック
UCCU-1179
2008年6月18日発売
都市型ジャズ・フェスティヴァルとして、すっかりTOKYOに定着した「東京 JAZZ 2008」。今年も8月29日(金)〜8月31日(日)に、東京国際フォーラムホールAにて開催されます。(くわしくはこちら)
その「東京 JAZZ 2008」に、デヴィッド・サンボーンが出演するのです。サンボーンは、まず初日の29日19:00〜の回「マスターズ・ガラ」に出演。対バンは、ロン・カーター4に、日野皓正5です。
ご本人が言うには
「音響がよく、サイズも大きなホールの特性を活かして、ぼくのヒット曲を中心にプログラムを組む。そこに新作からのブルースも少し入れて、聴衆の皆さんに楽しんでもらうつもり」
ブルーズ、ゴリゴリというプランはないのかしら?
「それが、それはそれでプランしているんだ。ブルーズづくしのステージは、12月頃にブルーノート東京に来日する予定なんだが、そのときに決行しようと思っている。つまり、今年の後半は2度、来日する予定だ。ライヴにどうぞ足を運んで、生の音だけがもつ振動やエモーションを楽しんでください」
以上、サンボーンからのメッセージでした。まずは東京JAZZでのステージを、どうぞお楽しみに。

写真提供:ユニバーサル ミュージック株式会社
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